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2017年 11月 01日

プラシド・ドミンゴ(1)。

■ そういえば、私がカラヤン/ベルリン・フィルの実演を聴き逃したのは他でもない、同じ時期に行われたプラシド・ドミンゴのチケットの方を買ったからだ。中学生でお金が無かったからどちらか選ばざるを得なく、当時の私は迷うことなくドミンゴを選んだw。1988年6月15日大阪ザ・シンフォニーホール。なぜドミンゴかって?一家を挙げてのドミンゴ・ファンだったから。家には親父が買ってきたドミンゴのCDが大量にあった。親父は大月楽器に『ドミンゴのCD出たら置いといて』とか言っていたのだろう。なんかよくわからない海賊盤とかまで大量に家にあったのだ。それで中学生の私は家の中でも車の中でもずーっとずーっとドミンゴ漬けで過ごしていた。もちろん心の中では「ディ・ステファノとかデル・モナコの方が凄いんでない?」とか思いつつも(笑)。いやしかし、ドミンゴの録音のおかげでどれだけの名盤に出会えたことだろう。クライバーの『椿姫』『オテロ』、ジュリーニの『トロヴァトーレ』『リゴレット』『ドン・カルロ』、アバドの『カルメン』、シノーポリの『カヴァレリア』、この綺羅星のような人類遺産級の名盤たちに私を導いてくれたのはドミンゴであり親父だった。

■ で、生で接したドミンゴは・・・まさに「化け物」という言葉が相応しかった。絶頂期のスーパースターのフルパワーは、シンフォニーホール2階後列の私の耳を粉砕するがごとく轟然と鳴り渡ったのである。いや、本当に耳が潰れるかと思うほど凄まじい音量で、あんなに凄い声はあれから聴いたことがない。まあ 3800 人収容のメトロポリタン・オペラを征服した大歌手が 1700 人のめちゃめちゃ残響あるホールで歌うわけですからね。風呂桶で暴れる鯨のような感じでしたよ。

f0080947_00413678.jpg■ でも中学生的に毎日オペラはしんどかったので、ドミンゴの軽い CD もよく聴いていた。たまたま CD を整理していたら出てきたので、20 年ぶりくらいに聴き直してみた。まずは『カタリ/ドミンゴ 愛を歌う』(1975, DG)。ドミンゴ 34 歳。超絶好調。絶好調すぎて音量が「小・大・特大」しかない。しかも小から大まで 0.8 秒くらいで行くわけで(ポルシェでも時速100km行くのに10秒かかるらしいが)「俺はこんなにいい声してるんだ!気持ちいいぜ!」ってのが前面に出過ぎで、そこが若いってことかな。歌の微妙なニュアンスとか言葉の意味とかほとんど考えてない。単に盛大に歌いまくるドミンゴ。伴奏がまたプレヴィン時代の熱いロンドン交響楽団(ちょうどスター・ウォーズ録音と同じ時期だw)で、こちらもドミンゴに張り合って絶好調。私の生のドミンゴの印象に実はかなり近い。この歳になって冷静にドミンゴを聴いてみると、ドミンゴの声って(バリトン出身だからか)少し暗いっていうか曇っていて、何かスカーンと突き抜けない。

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■ その突き抜けなさが絶妙な風味となっているのが「サルスエラのロマンス集」(1987, EMI)。これも、もう何度聴いたか分からないほど聴いていたのを今聴き直してみると ……、これはスペインの演歌ですね。あまりにもローカル色が強すぎて、歌詞を見ながら聴いてもほとんど何も共感できないのが逆に面白い。ただ、メロディは完全に覚えていてものすごく懐かしい。しかし、「これは自分のための音楽であり歌である」という気持ちが全く起きない。それは実はこの CD を聴いていた当時からそう思っていて、大人になれば理解できるかと思っていたけれど、全く分からないw。メロディとリズムはすこぶる魅力的なのだけど ……(そしてライナーノートと歌詞対訳はもちろん濱田滋郎さんだ!)。こんなに懐かしい音楽なのにこんなに自分から遠い音楽もない。不思議。

■ 私が聴いたこのドミンゴの演奏会はちょっとした伝説として語り継がれているらしい。関西のオケの方とお話させて頂いた時、最初に自分のお金で買ったコンサートは何かという話題になり、私が「シンフォニホールでのドミンゴの演奏会でした」と言ったら、その方はなんと「あ、あの時、私はドミンゴの後ろで弾いてました … 」と仰ったのだった。絶句。

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by thinkclassical | 2017-11-01 02:22


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